東京医科大学のホームページには、一番最初に
「深い教養と豊かな人間性を備えた“最高水準”の医師を育成します」と書かれていました。
でも、この大学が育成する“最高水準”の医師は、主に女性と4浪以上の男性「以外」なのかな。
目次
敬遠していたジェンダー論
たまたま先月、この本を読んでいなかったら
「税理士試験は、得点操作していなさそうだよね」と感じた程度だったかもしれません。
というか、長らく女性として働き、女性差別への感覚が麻痺していて
痛みや怒りを感じないようにするクセがついたのかと。
だからセクハラのニュースを聞いても、それに対して「働く女性なら誰でも経験してるんだから我慢すべき」と言う人が周りにいても、「それは違う」と言えない自分がいました。
ジェンダー論なんて、何だか古いというか、フェミニズム的だと敬遠していたくらいです。
「なぜ税理士に?」
「真弓はなぜ、税理士になったの?」
先日、英会話の先生に聞かれ、必死に英語で説明しながら
「そうだ私、女性じゃなかったら、絶対に税理士にはなっていなかったんだ」と
思い出していました。
だって、普通のサラリーマン家庭だし、大学の講義も簿記は苦手だったし。
でも、新卒での就職活動を経て、社会人になったとき
男性なら、普通に職業人生が開けているのに
女性は、何かに秀でていない限り、そのスタートラインに立てないという事実を知り。
特別な才能はない、キャリア志向もない、でも、普通に働き続けたい。
そんな女性は、何か資格を取るしかなさそう、と思い
一番早くなれそうな「税理士」を目指したのが、そもそもの始まりでした。
その後も「女性じゃダメ」は続く
2度目の税理士試験を終えた後、税理士法人(外資系2社と国内系最大手1社)の面接を受け
外資系に就職すると決めました。
決め手は、国内系最大手の面接方法にありました。
「男性」は応募者1人ずつの個人面接なのに
「女性」は一律、応募者5~6人一緒の集団面接だったから。
年齢や、職歴や、税理士試験の合格科目の数でもなく、女性だから集団面接。
この先、いったいどこまで「女性じゃダメ」が続くんだろう、と落胆した記憶までよみがえり
ジェンダー関連本を買って読んでいたところに、東京医科大学のニュースを聞きました。
女性がダメなのではなく、その働き方を強いる組織の方がダメ
私の周囲には、賢くて教養豊かで、でも仕事はしていないという、年上の女性が多くいます。
もし、こういった優秀な女性が普通に働き、能力を発揮できる環境が従来からあったとしたら
今よりもっと、世の中がよくなっていたのかも?と感じることがあります。
東京医科大学に限らず、「女性は早く辞めるから」といって制限するのではなく
本来は「なぜ女性は辞めざるを得ないのか」を考え、改善する方が先のはず。
だって、女性が辞めざるを得ない職場は、誰にとってもしんどい職場。
長時間労働や硬直的な勤務体系を、働き手に強いたままでは
いくら仕事をしたくても、家事や育児、介護などに対応できません。
やむなくやりがいのある仕事を優先し、結婚や出産をあきらめる人もいるかもしれません。
どの家にも専業主婦(主夫)がいれば別ですが、男女の性差の議論ではなく
働く時間や場所をフレキシブルにし、業務を効率化するなど、働き方の仕組みを変え
「仕事:家庭」の比率を、夫10:0、妻0:10ではなくしていけば済むことです。
その方が、世の中全体にとっては絶対有益なのに。
女性区別と女性差別は違う
「はじめてのジェンダー論」の本では、男女の経済格差をもたらす企業側の要因として
「性別職務分離」を挙げていました。
これは、女性社員をいわゆる女性向けの職種に偏って配置する人事慣行のこと。
「個々の能力に応じて配置したら、結果として男女の分布に偏りが見られた」ではなく
「一人ひとりの適性を軽んじ、性別というたった一つの属性のみにもとづき仕事を振り分けている」
こと、です。
典型例が
・ 繰り返しの多い定型的または補助的な仕事(=コピー取りやお茶くみ)
・ 男の顧客の気を引き女の顧客を安心させるようなソフトな接客(=受付)
を、女性に担わせること。
これは区別ではなく、差別です。
性別職務分離が固定されると、女性だけではなく男性にとっても、
個々の人が持っている、それぞれの能力が発揮されにくくなるという問題も生じます。
なぜなら、適材適所にならないのですから
それは、働き手の側だけではなく、企業の側にとっても大きな損失だと書かれていました。
本当の働き方改革は、時間の削減ではなく価値の増大
目指すべき働き方改革は
「労働時間を減らそう、仕事の量を減らそう」ではなくて
「仕事の付加価値をアップさせよう、生産性を高めよう」です。
従来なら、金太郎飴のような人材だけを集めた方が、楽で効率的だったのかもしれません。
でも今は、国内には物やサービスがあふれ、人口もどんどん減っています。
世界で戦うにしても、国内でイノベーションを起こすにしても、
従来とは逆に、どれだけ多様性のある人材を集めて発想力豊かにビジネスできるかが、カギなのでは。
たかだか「性器・生殖器に着目して人間を男女に分類」して閉ざしていたら
それだけで、顧客にも株主にもそして社員にも、見限られるのではないでしょうか。
ひとつの組織の中にいる人材は、理念を達成するために、同じ船に乗っている仲間。
だからこそ、働く人を旧態依然とした働き方に押し込めるのではなく、
働く人たちに合わせて、働き方の方を変えていくべきです。
女性を取り巻く環境が変わりつつあるこれから
若い女性が、もっと働きやすく生きやすい世の中になってほしいと思います。
ひとりごと
好調な売れ行きが続き、1万部の増刷が決まりました。累計73万2000部です。
また、朝日新聞に連載中の「備える相続税」も
3回目の掲載が終わり、残るはあと7回となりました。
新聞は、誌面に合わせて、書いた文章にかなり手を入れられます。
業界特有のしきたりなども含め、非常に勉強になります(しんどいですが)。