相続税申告書の添付書類、戸籍のコピーや法定相続情報一覧図の写しでもOKに

相続・遺言・遺産分割

平成30年4月1日以後に提出する相続税の申告書から、添付書類の範囲が広がりました。

【改正前】
戸籍の原本

【改正後】
以下の1~3のいずれか
1.戸籍の原本
2.法定相続情報一覧図の写し
3.1または2のコピー

税務署に認められる書類が増えるので、納税者にとってはうれしい改正です。

なぜ戸籍を添付する必要があるの?

でも、そもそも「戸籍」って、一番プライベートな個人情報ですよね。
出生の経緯や両親のこと、結婚・離婚・再婚歴、子どもを認知した事実、養子の事実など。

場合によっては友人にも知られたくないのに、ましてや戸籍を他人になんて…

なのに、なぜそんな個人情報を申告書に添付するかというと、
相続税の計算が正しいかを税務署がチェックするためには、どうしても戸籍が必要だからです。

相続税の計算には、戸籍に載っている情報が必要

・ 相続人になるのは誰?
・ 相続人は何人いる?
・ 実子は誰? 養子は誰?

こういった戸籍から読み取れる個人情報は、「相続税の非課税枠」「税率」「相続税が2割増になる人の確認」などの、相続税の計算には必要不可欠。

そして税務署は、提出された申告書が正しいかをチェックするのが仕事です。

そのため、申告書には個人情報を公的に証明できる書類=戸籍の添付が求められているのです。

なぜ改正されたの?

「戸籍の原本」は、他の手続きでも使うのでコピーでOKに

改正前は、亡くなった方のすべての相続人が確認できる戸籍の謄本の「原本」を、申告書に添付する必要がありました。

となると、亡くなった時点での戸籍謄本に加え、過去の戸籍も必要になります。

(既に戸籍内に誰も残っていない除籍謄本や、法改正で閉鎖された古い形式の改製原戸籍謄本もチェックしないと、過去の婚姻や出産の事実などが確認できないため)

※実務上、東京国税局管内の税務署は、コピーでも黙認されていましたが、関東信越国税局管内の税務署はNGで、申告書提出後、原本の提出を求められるケースもあったと聞きます。

この戸籍一式は、他の相続手続きでも使うので、遺族は戸籍一式を複数揃えなければならず、手間や費用がかかっていました。

税務署への提出がコピーでOKになり、これが解消されました。

「法定相続情報一覧図の写し」の原本やコピーでもOKに

また今回新たに、戸籍の代わりに「法定相続情報一覧図の写し」という書類の原本やコピーを税務署に提出する形でも、OKになりました。

【参考】「法定相続情報一覧図の写し」

平成29年5月にスタートした制度に基づく書類

平成29年5月に「法定相続情報証明制度」がスタートしました。

近年、空き家や所有者不明の土地が、社会問題となっています。
不動産の名義を、亡くなった人から相続した人に変える相続登記の面倒さが、その理由のひとつだといわれてきました。

面倒さとは、登録免許税や司法書士報酬がかかること、そして、手続きのため戸籍一式が必要になることなどです。

そこで、この制度がスタートしました。

相続人が戸籍を集めて法定相続情報一覧図を作り、それらを法務局に提出すると、戸籍の代わりに使える公的な書面として「法定相続情報一覧図の写し」を交付してくれる制度です。

開始後約1年たち、ようやく相続税申告でも認められるようになりました。

「一覧図の写し」はどうやって入手する?

相続人や代理人(弁護士、司法書士、税理士など)が必要書類を揃えて、以下の1~4を管轄する法務局のいずれかに申し出れば、無料で交付してもらえます。

1.亡くなった方の本籍地
2.亡くなった方の最後の住所地
3.申出人の住所地
4.亡くなった方名義の不動産の所在地

気をつけたいのが、まず戸籍の束をもとに「一覧図」を作るのは、申出人自身だということです。

あくまでそれに対し、法務局がお墨付きを与えてくれるという制度です。

家族関係が複雑で、戸籍の読み取りが難しい場合は、相続登記や相続税申告を依頼する司法書士や税理士に作ってもらってもよいでしょう。

図は【法務局HP】より
(法務省民事局 ~法定相続情報証明制度について~)

申告書の添付書類として使う場合は一定の要件あり

ただし、「一覧図の写し」を相続税申告の添付書類として使う場合は、一定の要件を満たした一覧図でないと認められませんので、気をつけましょう。

【要件】
・ 以下のような、図形式であること(列挙形式ではダメ)
・ 子の続柄が戸籍通りに記載されていること(実子か養子かが分かること)
・ 養子がいる場合、養子の戸籍謄本または抄本の原本かコピーも添付すること

図は【国税庁HP】より
平成30年度税制改正により相続税の申告書の添付書類の範囲が広がりました

ひとりごと

一覧図の写し、私のお客様の中には自分で手続きした方も複数いらっしゃいます。家族関係がシンプルで、時間が許せばトライしてみてもよいですね。

また、添付書類については、私の本でも詳しく説明していますが

-相続・遺言・遺産分割

関連記事

相続人の方を名字・肩書・続柄で呼ばない理由

複数の相続人の方が集まる席に、税理士が同席する機会は多くあります。 相続税申告のみのお客さまでも 顔合わせ、途中経過のご報告、遺産分割協議、申告内容・納税額のご説明など。 私は、基本的に「〇〇さま」「 …

改正相続法を味方につける。自筆証書遺言がより手軽に・確実に

民法(の相続に関する規定)が、約40年ぶりに変わります。 そのうち、特に影響が大きいと思われる「自筆証書遺言」の改正点をまとめました。 目次1 今までは「公正証書遺言」が主流1.1 公正証書遺言とは? …

遺留分についてのよくある誤解、2つ

今週は、対面で2度、個別カウンセリングのご依頼がありました。 うちひとつは、遺留分のご相談でしたが 「確かに分かりにくいかも」と思った2つの点についてまとめました。 目次1 遺留分侵害額の負担は兄弟平 …

民法(相続関係)改正のパブリックコメント募集がスタートしました

>昨年から、法制審議会の民法部会で議論が行われていましたが 今週、民法(相続関係)改正の中間試案が公表され、パブリックコメントの募集がスタートしました(9月末まで)。 主な論点は、配偶者の生活へ …

生前贈与の遺産への持戻し、10年限定になったのは遺留分侵害額の算定だけ。相続分は違います

週刊朝日2019年11月8日号 「きょうだい格差が招く相続トラブル」に取材協力・コメントしています。 兄弟格差は、相続争いの永遠のテーマですが 「過去どのくらい前までの生前贈与を、親からの遺産の先取り …