配偶者の税額軽減、「1億6,000万円以下なら非課税」ではない

相続・遺言・遺産分割

本の読者から、「配偶者の税額軽減」について、立て続けに同じ質問を受けました。

「申告書の記載例で、配偶者に相続税が生じている。これは間違いではないか?」というものです。

 

本ではどう説明していたか

配偶者の税額軽減について、私の本では次のように説明しています。

亡くなった方の戸籍上の配偶者は、亡くなった方の財産を相続しても、1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い財産額までは、相続税がかかりません。この特例を配偶者の税額軽減といいます。

そして、申告書の記載例として、遺産の総額が約9,000万円、妻はそのうちの約5,000万円を相続したケースを載せました。

それなのに、妻に約2万円の相続税が生じていますので、「あれ?妻に相続税はかからないのでは?」と感じる方がいても、不思議ではありません。

配偶者の相続する財産も、相続税の課税対象になる

手順の正しい説明

本当は「配偶者には相続税がかからない」わけではありません。

正しくは、まず遺産「全体」にかかる相続税を、いったん計算します。
もちろん配偶者の相続する財産も含めて、です。

その後で「配偶者の取り分」に相当する税額だけを、配偶者の納める相続税からマイナスする処理を行います。

これが、配偶者の税額軽減の正しい計算手順です。

計算例

相続人:妻・子1人 計2人
遺産:1億円。妻と子が5,000万円ずつ相続
相続税の総額:770万円(妻385万円、子385万円)

配偶者の税額軽減額:770万円×5,000万円/1億円=385万円

妻の納める相続税:385万円-385万円=0
子の納める相続税:385万円

青字は「配偶者の取り分」です。

配偶者が相続する財産額が「1億6,000万円」か「法定相続分」までなら、この方法で計算すると、通常、配偶者の納める相続税はゼロになります。

取り分の小数点以下が割り切れないと、相続税が生じることがある

取り分は「5,000万円/1億円(1億分の5,0000)」のように、分数で示します。

分数が割り切れればよいのですが、割り切れない場合は、端数処理の問題が生じます。
申告書には、「分数」ではなく「小数」で記入するからです。

この場合、全員の取り分の合計が1になっていれば、小数点2位未満をどう処理するかは、自由に選択してよいことになっています(相続税法基本通達17-1  あん分割合)。

切上げ、切捨て、四捨五入などの決まりも特にありません。

ここで、配偶者の取り分を「切り上げる」と、計算上、配偶者に相続税が生じることがあるのです。

なぜ、記載例では切上げたか?

通常、税理士は、お客様が一番得をする(節税できる形の)申告書を作ります。

本の事例では、相続税が2割増しになる「孫」も遺産を相続していたため、孫の取り分の端数を「切り捨て」ると、全員が納める相続税の総額が最も少なくなりました。

そのため、その分、配偶者の取り分の端数を「切り上げ」た結果、配偶者の税額軽減でマイナスしきれず、配偶者に相続税が生じてしまったのです。

難しい内容ですが、ご説明したところ、一応納得して頂けたようで安心しました。

ひとりごと

昨日、1万部の増刷が決まり、旧版・新版合わせて累計69万3,000部になりました。

4/13(金)のTBSテレビ「爆報!THEフライデー」でも、少しだけご紹介頂けるとのこと。私も録画し、後で見るつもりです。

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