家族による立替金も債務控除を忘れずに

相続・遺言・遺産分割

相続税の債務控除は、
相続人が「死後に」支払ったものに限らず、「生前に」立て替えたものも対象になることが多いです。

領収書は、大切に保管しておきましょう。

債務控除とは

相続人や包括受遺者が、亡くなった方の債務や葬式費用を支払った場合は
相続財産からその金額を差し引き、相続税を計算できます。

借金に限らず、未払いの入院費や水道光熱費、クレジットカードの利用料なども差し引けます。

「相続開始時に」存在している、故人の債務が対象になりますので
通常は、相続人などが死後に支払った費用を集計します。

死亡「前」に発生した故人の費用 → 死亡「後」に相続人が支払い = 債務控除OK

家族による立替金は

一方、実務では、故人に関する諸費用を、生前に家族が自分の財布から払い
亡くなった方に請求していなかった(精算していなかった)というケースにも多く遭遇します。

この家族による立替金は、債務控除の対象にならないのでしょうか。

死亡「前」に発生した故人の費用 → 死亡「前」に相続人が支払い = 債務控除NG?

控除できる場合・できない場合

例えば、生前に家族が立替払いした、故人の入院費があったとします。

相続開始時に、故人→病院への債務はありません。

債務控除の対象は、相続開始時に存在している債務に限られますが
入院費は既に家族が支払い済です。

でも、故人→家族の視点で考えるとどうでしょう。

たとえ相手が家族でも、それが家族に対する「債務」なら、債務控除は可能です。

だとすると、家族が故人の入院費を支払った行為が、
次のどちらなのかを検討する必要が出てきます。

単なる立替金の場合

とりあえず、家族は立替払いしただけだたったなら
それは、故人→家族への債務であり、債務控除が可能です。

扶養義務の履行の場合

法律上、夫婦、親子、兄弟は相互に扶養の義務があります。

相続税法 第1条の2(定義)
一 扶養義務者
配偶者及び民法第877条(扶養義務者)に規定する親族をいう。

民法 第877条(扶養義務者)
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

家族が、扶養義務の履行として入院費を払ったなら
後で故人に「その分返せ」とは請求しないでしょう。

だとすると、それは債務ではありませんから、債務控除はできません。

通常は立替金と考え、控除OK

とはいえ、家族が故人を扶養(経済的に援助)しなければならないのは
故人に資力がなく、家族に資力がある場合に限られます。

故人に相続税がかかるほどの財産がある場合で
扶養義務の履行にあたるケースは、ほぼないと思われます。

よって、通常は立替金と考え、債務控除が可能です。

立替えの事実を証明できるよう、領収書を保管しておくか、
領収書がない費用については、支払日・金額・内容などをメモしておきましょう。

注意点

通常、立替金の有無が問題になるのは、相続税の計算ではなく、遺産分割の場面です。

立替金のある相続人は、その分を遺産分割時に精算し、遺産から受け取る必要があるからです。

その点からも、領収書はきちんと保管しておきましょう。

ひとりごと

リーディンググラスを買いました。

今のところ
三角スケールを使うときと、暗闇でスマホを見るときに「限り」、お世話になっています。

-相続・遺言・遺産分割

関連記事

障害者控除の控除不足額、扶養していない扶養義務者からも差し引けます

相続税には、障がいのある人の税負担を軽くする「障害者控除」という規定があります。 控除できる人の範囲は意外に広いので、控除もれに注意が必要です。 目次1 障害者控除とは2 成年被後見人も対象になる3 …

特定路線価の申請は「任意」です。申請しない方が得になるケースに注意しましょう

目次1 7/1は「相続税」路線価の公表日2 「固定資産税」にも路線価がある3 相続税の路線価が付されていない場合は? 7/1は「相続税」路線価の公表日 今日7/1は、「相続税」の路線価の公表日です。 …

日本経済新聞コメント掲載『相続税、生命保険で負担減 非課税枠や保険料贈与を活用』

令和5年度の税制改正では、相続贈与の一体課税という大きな改正があったため 日本経済新聞でも「点検 相続節税」という連載がされています。 本日、2023年1月28日の朝刊 「相続税、生命保険で負担減 非 …

専門家の書く相続本はなぜ読みにくいのか

FPさんが書いた、相続本のゲラチェックを終えました。 5/8の校正期限までに、ゲラを編集者さんに返送でき一安心。 読みやすくあったかい文章で、私の母世代の女性が読むのにピッタリの本でした。 今回のゲラ …

相続税申告書の添付書類、戸籍のコピーや法定相続情報一覧図の写しでもOKに

平成30年4月1日以後に提出する相続税の申告書から、添付書類の範囲が広がりました。 【改正前】 戸籍の原本 【改正後】 以下の1~3のいずれか 1.戸籍の原本 2.法定相続情報一覧図の写し 3.1また …