「賃貸アパートに3年間空室のままの部屋があっても、敷地全体を貸家建付地で評価してよいと
最近読んだ相続本に書かれていました。僕は、1か月間以上空室だとダメだと聞いたことがあったのですが…
正しくはどうなんでしょう?」というご質問を受けました。
貸家建付地の評価とは?
自宅敷地などの自用地は、持ち主がいつでも自由に処分できますが、
賃貸アパートの敷地などの貸家建付地は、賃借人がいるため、建て替えや売却などに制約があります。
そこで、建物の賃借人の権利を考慮して、 相続税法上は自用地より低く評価でき
自用地が1000万円なら、貸家建付地は(借地権割合70%の地域で)790万円の評価額で済みます。
アパートに空室がある場合には?
でも、その建物に空室があると、建物の実際の賃貸割合に基づき、土地を評価しなければならず
(賃借人の権利を考えなくてよい部分は除くので)、貸家建付地として評価できる範囲が狭まります。
例えば、20㎡×10部屋のアパートの3部屋が空室なら、評価額は853万円に上がってしまうのです。
とはいえ、空き家問題が深刻化しているように、既に家余りの時代…。
募集し続けても入居者が入らないアパートはザラにあります。
収益性が下がりキャッシュフローも悪く、賃借人がひとり減っても、処分できない事情に変わりはありません。
そこで、相続時にたまたま空室だっただけ(一時的な空室にすぎない)といえるなら
実際の賃貸割合を考慮せず、全体を貸家建付地として790万円で評価していいことになっています。
財産評価基本通達26(貸家建付地の評価)にも、「継続的に賃貸されていた各独立部分で、
課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない」
と書かれており、税理士も「一時的な空室」だといえるか、じっくり検討し、申告書を作っています。
税務調査の現場では、なぜ「空室1か月基準」?
でも、国税不服審判所における過去の裁決を調べると、「1か月以上の空室はダメ!」という事例があり
実際の税務調査の現場でも、そう指摘されることが多く、対処に困ることがあります。
その理由は、国税庁HPタックスアンサー 貸家建付地の評価の中にある
例えば、次のような事実関係から、アパート等の各独立部分の一部が課税時期(相続の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)において一時的に空室となっていたに過ぎないと認められるものについては、課税時期においても賃貸されていたものとして差し支えありません。
(1) 各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること
(2) 賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中、他の用途に供されていないこと
(3) 空室の期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど、一時的な期間であること
(4) 課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと。
「例えば1か月程度であるなど」という部分だけに調査官が着目して、課税しようとするからです。
でもこれは、「例えば」「程度」と書かれているように、1か月は単なる例示(たとえ話)。
そもそも法令や通達でもないし、国税庁が勝手に示した見解にすぎません。
つまり、空室期間だけにとらわれず「継続的に賃貸されていたか」
「退去後は他の用途に使わず、速やかに入居者を募集しているか」
「近隣エリアにおける賃貸物件全体の状況(需要、物件数、空室状況など)はどうか」などの様々な事情から
総合的に判断するのが、税務上、正しいということになります。
最近は、空室の多いアパートが本当に多いですが、決してムダに多く相続税を払うことのないように(^_^)/
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再び増刷され、25刷/累計29万部になりました。
類書も多数発売されたため、実績をアピールしようという出版社さんの判断で、25刷からは帯付きに…
続編の原稿執筆もようやく終わり、あとは監修・編集作業待ちです♪