「初めて相続税の申告を受注したけど、何をどう進めたらいいか分からないので
サポートをお願いしたい」という相談を、同業者から受けることがあります。
土地の現地調査で写真をパチパチ撮れば、怪しまれることもあります。裏通りの枕を撮影してたら、そりゃね。
会計をベースとする(日々の収支に基づき決算を組み、所得計算を行う)
法人税・所得税・消費税の概念や業務の手順と、相続税のそれとは
カバーすべき知識や経験のエリアが まったく違います。
また、相続税法にきちんと合格している税理士は少ない上に
税理士歴が長くても、相続の相談や案件を受ける機会は、あまりないのが普通です。
先ほどまで、お客様との初面談を控えた税理士さんに
資料依頼の仕方~今後の業務の進め方をアドバイスしていました。
相続税そのものはさておき、相続業務を初めて行う上で、税理士が注意すべき点は何でしょう。
1. いつものお客様とは違う
税理士の普段のお客様は、中小企業経営者や個人事業主などですが
相続業務では、事業承継案件を除き
「仕事をリタイアした男性」や「お勤め経験のない女性」などが、主なお客様になります。
そのため、ビジネスを行う上で、税理士が普通だと思っていることが
「お客様にとっては普通ではない」ということが多々あります。
中でも一番の注意点は、「税務調査や申告もれ」についての認識の差です。
自分で会社や事業をやっている方は
「真面目にちゃんとやってても、税務署は何か言ってくるもんだ」と
過去の経験からある程度の理解があります。
でも、相続のお客様は「税理士に報酬を払って申告を依頼したのに
税務署が来てさらに税金を取られることがあるなんて!」と思われることがあるようです。
(たとえ、自分がヘソクリを隠していたのが原因でも)
そのため、「税務調査の確率3割 うち申告もれ率8割」という数字とその意味を
事前にきちんと説明し、理解してもらう必要があります。
また、女性のお客様に対しては、法律上の考え方や損得を説明しても、理解を得られず
話が進展しないないことがあります。
「勘定(お金)」に加え「感情(気持ち)」への配慮が欠かせません。
2. 相続時のBS(貸借対照表)情報だけをもらってもダメ
亡くなった人名義の、亡くなった時点の財産のリストを正しくすべてもらっても
相続税の申告はできません。
それは、過去の帳簿や決算書、申告書が一切ない法人の税務顧問にいきなりなるようなものです。
過去の元帳(収支)やBS(貸借対照表)の推移、PL(損益計算書)がなく
亡くなった時点のBSだけで、その数字が正しいか検証できるはずがありません。
過去のPL(損益計算書)の積み重ねが、現在のBSです。
法人の税務顧問なら、日々の収益・費用を定期的に、少なくとも年に1度はチェックし、決算を組み
法人税や消費税の申告を行っているはずです。
相続税の申告はその個人版なので、過去の収入や生活費、遊興費のデータをあるだけもらい、
亡くなった方がいくら稼いでいくら使ったから、いくら程度残っているはずなのかを
家族の話を聞き、考えながら、相続税の申告作業を行う必要があります。
個人版時価BSの作成=相続税の申告作業、なのですから。
とはいえ、当事者はすでにこの世にいないため
生前の資金使途や財産の形成過程の把握には限りがありますが
この考え方が頭にあるかないかで、相続業務への取り組み方が確実に変わります。
相続業務は大変でリスクも大きいけれど、とても楽しい仕事です。
一般のお客様に限らず、同業者からもお声がかかるのはありがたいことなのかもしれません。