配偶者控除の見直しが話題になっています。
「女性の働く意欲を阻害しているから、見直すべき」とか
「伝統的家族観が崩れるから、見直すべきではない」とか、いろいろな意見がありますが
この制度を誤解している人が多そうなのが、気になっています。
配偶者控除は、決して「専業主婦世帯の税負担を軽減する仕組み」などではないからです。
配偶者控除とは?
個人が納める所得税は、所得×税率で計算します。
「所得」とは、会社員の給与や自営業者の売上ではなく
そこから「経費」や「所得控除」を引いた残りのこと。
配偶者控除は、この所得控除のひとつです。
同じ年収1000万円の会社員でも、誰も養う必要のない人と
妻子や親を養っている人とでは、税金を負担できる能力に差があります。
そのため、所得税には
配偶者控除(38万円又は48万円)や扶養控除(38万円~63万円)といった所得控除があります。
簡単にいえば「妻子や親を養うのにかかる費用には、所得税を課税しません」ということです。
※今どき、たった年38万円で妻子を養えるか否かはともかくとして
配偶者控除の必要性
配偶者控除については
「主婦に家事労働をしてもらっている人だけが、なぜ自分の税金を安くできるのか」
「家事なら、働く主婦だって当然しているのに不公平だ」という批判がありますが
これはまったくの見当違いです。
配偶者控除は、単に収入のない主婦の基礎控除を、夫の収入から差し引いているにすぎないからです。
根拠はコレ↓
日本国憲法 第25条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する
誰でも使える所得控除に、基礎控除38万円があります。
憲法第25条の生存権を保障するため
国民が健康で文化的な生活を営む最低限の金額には
税金を課さないという趣旨から、この基礎控除は設けられています。
妻子を養う費用分(=配偶者控除や扶養控除)に限らず
もちろん自分にかかる費用分(=基礎控除)にも、所得税は課されません。
つまり、配偶者控除の本質は
無職のため自分の収入から「基礎控除38万円」を差し引けない専業主婦の基礎控除相当額を
「配偶者控除38万円」として、妻を養う夫の収入から代わりに差し引いているだけです。
無収入の人の生活は、本来国が保障しなければならず、生活保護費は国民全体の負担になります。
でも民法は、夫婦は互いに助け合う(相互扶助)義務があると定めているため、
夫が代わりに妻を養っています。
だから、妻を養う費用の分、国が夫に所得税を課さないのは、当然です。
配偶者控除の何が問題?
実は、得をしているのは
専業主婦家庭ではなくパート収入103万円以下の主婦のいる家庭です。
【1】 夫婦共働き
夫の収入から基礎控除38万円+妻の収入から基礎控除38万円=控除額76万円
【2】 働く夫+専業主婦の妻
夫の収入から基礎控除38万円+配偶者控除38万円=控除額76万円
【3】 働く夫+103万円以下のパートで働く妻
夫の収入から基礎控除38万円+配偶者控除38万円
+妻の収入から基礎控除38万円=控除額114万円
夫は「妻の合計所得金額」が38万円以下なら、自分の収入から配偶者控除38万円を差し引けます。
(合計所得金額とは、「給与-給与所得控除(みなし経費)」の金額です)
妻のパート収入が103万円なら
妻自身の所得税の計算は「給与103万円-給与所得控除65万円=合計所得金額38万円」となり
夫は配偶者控除38万円が使えます。
さらに妻は
自分の合計所得金額38万円から自分の基礎控除額38万円も差し引け、最終的な所得金額がゼロとなり、所得税は1円も課税されません。
結果として【3】の場合
夫の収入から配偶者控除38万円が引け、さらに妻の収入からも基礎控除38万円が引けるので
妻を養う費用分が二重に控除されてしまっているのです。
※ただ一般的に
専業主婦家庭は夫の収入が多めで妻が働く必要性が低く
さらに大企業勤務なら会社からの配偶者手当などもある一方
パートで働く妻のいる家庭はそうではないことが多いので
「配偶者控除は専業主婦優遇!」のような誤解が多いのかもしれません。
税制はどうあるべき?
働き方は各個人の「生き方」「人生の送り方」であり、税メリットで決めるものではありませんが、
税制は個人の選択に対しできるだけ中立であるべきなので
二重控除の部分は見直した方がよいと思います。
本当は、女性の労働環境を整えたり
会社員の妻の国民年金第3号被保険者の扱いを見直したり
公的年金控除や遺族年金の非課税などシニア世代優遇に偏っている所得税の体系を変えたり
こういった必要性の方が高いと思いますが、なかなか難しいのでしょうね。