「辞めたふり」じゃないなら、分掌変更でも役員退職金の分割支給はOK

税・お金

今夜は、日本税務会計学会訴訟部門の事前勉強会です。

テーマは、「分掌変更による役員退職金」。
分掌変更があった決議事業年度ではなく、実際に分割で支給した年度で
役員退職金を損金にできるか否かが、論点となった事例です。
平成27年2月26日、東京地裁において納税者の主張(支給事業年度での損金算入)が認められ
課税処分の取消が確定しました。

今までの税理士と税務署の常識(通達)が、裁判でしりぞけられた注目度の高い判決なので楽しみです。
税務弘報の最新号に、藤曲先生が執筆された関連記事があったので、予習してから参加します。

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法人税基本通達9-2-28には、
役員退職金は、株主総会の決議「又は」支払事業年度で損金算入できると書かれています。

【9-2-28 役員に対する退職給与の損金算入の時期】
退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。 ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。

裁判で税務当局は、この通達のただし書き(支払事業年度での損金算入)は
完全に退職した場合にのみ適用され、分掌変更による退職では適用できないと主張していましたが
これがしりぞけられました。

会社は、退職金の未払計上はしておらず、2度の支払の都度、損金処理しています。

なお、分掌変更退職金については、法人税基本通達9-2-32の注意書きで、
未払金等への計上(分割払いを含む)はNGと書かれています。
しかし、「原則として」とあるように、資金繰りの都合など合理的な理由がある場合にまで
役員退職金の一括払いは強制されず、未払or分割払いでもOKだとされています。
※(注)は平成19年に東京高裁の判決を受け、追加されたもの。

【9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与】
法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない

一般的に、分掌退職のケースで、税務署と争いになるのは
「辞めたふり」ではなく、「本当に辞めた(=実質的に退職した)」のかどうか、という点です。
会社における地位や職務が激変し、実質的に退職したことが事実なら、
分掌退職退職金だからといって、支払事業年度で損金算入できないとは、 9-2-28からは読めません。

実質的に退職したことが事実であり、分割払いが利益調整によるものではないのなら、
あえて、9-2-32で「分掌変更退職金の未払・分割処理はNG」と注意書きし
完全に退職した場合と、分掌変更による退職を区別する必要はなく
当局は通達の内容を再検討しては(というのが藤曲先生の執筆記事かと・・・)。

ま、通達は法律ではなく、納税者は拘束されませんし
国が控訴しなかったということは、地裁だしね、とこの判決は無視し
「分掌変更退職金の未払い or 分割払い=否認」という執行を続けるのかな(私の私見)

訴訟部門のみなさんは、私と違ってベテランなので、判決内容と根拠を 詳しく勉強してきます!

※この判例から読み取れること(2015年6月23日追記)
資金繰りの都合で,役員退職給与を一時に支払えない場合であっても
役員退職給与の「総額」と「終期」はあらかじめ定めておき,
支払った金員と退職との因果関係を立証できるようにしておくことが大切。

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土曜の午後は、都築法務税務会計研究グループの研修会へ。
テーマは、法人税(資本的支出と修繕費、寄附金)と消費税でした。

税理士には、年間36時間の研修義務がありますが、土曜や今日の研修はすべてカウントの対象外。
本当にタメになる研修ほど、研修時間として認定されないような…(^_^;)

そして日曜は、文京あじさいまつりへ。 でも、カタツムリはいなかったな~

-税・お金

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