「相続解決人」という職業

相続・遺言・遺産分割

昨日、自宅に届いた日経ビジネスの巻頭特集は「稼げる新職業」。

データサイエンティストやIoT農家といったAI系の仕事が多い中、
目に留まったのが「相続解決人」という職業です。

「相続解決人」っておこがましくない?

記事によれば

「相続解決人」

相続トラブルの防止、解決に特化した士業。
戸籍や税務など幅広い法律知識、遺産分割の公平性を見極める経験が求められる。

とのこと。

相続トラブルの防止、解決に特化した士業

弁護士・司法書士・税理士といった個別の士業ではなく
相続ビジネスに携わる士業全般という、幅広い意味で使われているようです。

しかし士業には、法律上、その資格を持っている人にしかできない独占業務があります。

相続トラブルの防止や解決=紛争性あり、でしょうから
弁護士でないと「解決人」になるのは難しいような気がします。

ただし、通常は信頼できる士業なら、信頼できる別の士業とのつながりがありますから、
それを感じられるいずれかの士業を選べば、大丈夫だと思います。

(私も、税金以外の複雑な話は、必ず弁護士や司法書士の友人を頼ります)

戸籍(民法?)や税務など幅広い法律知識

知識があるのは当たり前、というか大前提として
それさえあれば大丈夫、と思っている専門家がいたら、むしろその方が問題かと。

民法や税法は、利害が対立する者同士を調整したり、国が税金を取ったりするための
「単なる決まり」。

それなのに、

「民法では、財産をこう分けることになっています」
「あなたは取り分を侵害されているから、請求すればこれだけもらえます」

「遺産○○○円だと、相続税は○○円です」
「生前贈与をすれば、贈与税は△△円で、さらに生命保険に入れば、●●円節税になります」

さもそれが正解かのように、専門家が一般の方に語ることの方が怖いです。

利害調整や徴税のための決まりと、その家庭にとっての理想的な形は違います。

遺産分割の公平性を見極める経験

どんな遺産分割が、この家庭にとって公平か。
今より経験を積んだとしても、私には見極められる気がしません。

仮に経験で分かるとしたら、「公平性」ではなく「落としどころ」や「妥協点」ではないでしょうか。
法定相続分や遺留分だって、税率だってそのためのもののような。

だって、ある人にとっての公平は、別のある人にとっては不公平になります。
公平は、均等や平等とは違う以上、人それぞれ、何を公平と思うかは違っていて当然。

自分の経験はあくまで限られたもので、一般化することはできません。

そうやって考えていくと
ただの法律の知識や、過去の自分の経験だけで「解決人」と名乗ることが
そもそもおこがましいと感じます。

もし「相続解決人」を目指すなら

相続トラブルを、法律や税金の観点からだけで解決できることはほとんどありません。

だとすると、もし士業が「相続解決人」を目指すなら
「そもそも相続はどうあるべきか?」という問いを、自ら考え続ける必要があるのでは。

(なんだか哲学っぽいですが)

でも、法律や税金の正しい知識を持っている立場だからこそ、
じゃあ、それらが定めている「相続」が本当はどうあるべきなんだろうという「本質」を
考え続ける意味があるし、その責任も負っていると思うのです。

自分なりに考え続けているからこそ、その家庭ごとの最適解が見え、アドバイスもできる。

でも私なら、あえて解決人は目指しません。
相手にアドバイスはしても、その後、それにどう反応するかは、相手次第ですから…

ひとりごと

婦人画報の記事
「92歳のブロガー、藤永茂さんが伝えたいこと たったひとりの「革命」」は女性におすすめです。

いつもは美しい写真をパラパラと眺めるだけなので、じっくり読んだ記事は久しぶり。

頂き物のさくらんぼ。K先生、いつもありがとうございます。

-相続・遺言・遺産分割

関連記事

続・自筆証書遺言の方式緩和と保管制度の新設について

先月、民法相続編が改正された影響はとても大きく 「手間や費用のかかる公正証書ではなく、簡単に作れるようになった手書きの方で作りたいので、 サポートしてほしい」といったご相談が非常に増えています。 改正 …

個人的には?だけど、使いたいなら結婚・子育て資金贈与特例のQ&Aは事前にチェック

今月、内閣府のHPに公表された、結婚・子育て資金一括贈与非課税特例のQ&Aを読んでいたところ 相続後の取扱いがスムーズに理解できない点がありました。 ●プロフィール ●個別カウンセリング

非上場株式の評価方法が変わりました

非上場会社の株式の評価方法である、類似業種比準方式が見直されました。 上場していないすべての会社に影響のある大きな改正で 先週、国税庁HPに新通達と解説が掲載されています。 財産評価基本通達の一部改正 …

類似業種比準価額の業種目は「小なら中」「中なら大」を選択できます

目次1 税理士職業賠償責任保険の事故事例2 業種目は、小分類なら中分類、中分類なら大分類を選択可3 非公開会社の株式の評価方法4 自社の業種目の探し方5 ひとりごと 税理士職業賠償責任保険の事故事例 …

あなたの相談相手は、相続税が「目的」?それとも「手段」?

バード財産コンサルタンツの山浦先生が発行している「バードレポート」を、タクト時代から購読しています。 不動産系の情報が多く、FAX1枚のため、ササッと読めて便利です。 ●プロフィール ●個別カウンセリ …